久しぶりに、熱力学の記事を書きます。
前回の記事を思い出せば、高温熱源と低温熱源の二つを組み合わせたサイクルについて論じてきたけれども、熱源の個数にしばられずもう少し一般的な関係を調べたのがクラウジウスの不等式です。このクラウジウスの不等式の証明ですが、初学者から見ると全くもって意味不明だと思う。私も学生時代意味不明でした。なので、力が及ばないかもしれないが丁寧に解説していこうと思う。そこで次の図を見てほしい。
まず①の部分について、これは温度Tの熱源を利用して、
可逆サイクルC1,C2,C3~Cnを動かす図です。よくわからなければC1を見てみよう。
C1の場合、温度Tの熱源があって、その熱源から熱Q1'を受け取ってサイクルC1を動かしています。
C1は仕事W1をするとともに熱を供給します。この熱をQ1’’とし、
Q1の熱を温度T1の熱源に熱を運んでいるのです。
これをn個のサイクルで行い、それぞれ温度T1からTnの熱源に熱を運んでいます。
この場合、
前回の記事を思い出せば、
任意のサイクルCkに対して、下記の式が成り立ちます。
Qk'/T + Qk''/Tk =0 ……A
また、n個のサイクル(k=1~n)で上の等式を足し合わせると、下記の式が成り立ちます。
(1/T)*ΣQk' + Σ(Qk”/Tk)=0 …B
ここまでが①の部分でやっている操作であり、この複数の熱機関について
A式、B式が成り立つのは自明です。
次に②の部分を説明します。先ほど登場したn個の熱源から熱Q1~QnをサイクルCにおくって
仕事Wをさせる図です。一見すると、この図はトムソンの原理に反していそうですが、
Q1からQnの中に負の熱があってもいいのです。
負の熱があってもいいということを聞くとこれも何だかよくわからなくなりますが、
熱源を少なくするとイメージしやすいです。そこで下の図をみてください。
この図の②-①だと、熱源はT1,T2,T3しかありません。このうち、T1,T2が正の熱Q1,Q2を放出し、
T3がQ3の熱を受け取るものだと考えます。
これって、普通のサイクルと同じことをやっているのに気がつきませんか?
だって②-①のようにT1,T2が正の熱Q1,Q2を放出し、T3がQ3の熱を受け取るということは
②-②のように普通のサイクルに書き換えられるじゃないですか。
②-①と②-②のはやっていることが完全に同じなのです。熱を送る側の熱源だけ書いて
負でもよいというとどうもイメージがわかないのですが、これと同じだと理解すると
この記述の意味が想像できると思います。何個かの熱源が負で何個かの熱源が正という前提だから
よく関係が整理できないのだけれども、少数の熱源に絞って考えれば意味がわかるんじゃないかと
勝手に思っていますが、それでも意味がわからなかったらすみません。
このようにして、熱源T1,T2,~Tnと②のサイクルは連結できるのです。
さて②での熱のやり取りQ1を-Q1”と等しくなるように操作するとします。
すると、B式から下記の関係が成り立ちます。
(1/T)*ΣQk' = Σ(Qk/Tk) …C
いい関係式が得られましたね。ここで考えたいのですが、ΣQkは正でしょうか負でしょうか。
実は、ΣQk>0だとするとトムソンの原理に反してしまうのです。
従ってΣQk≦0(サイクル②が可逆サイクルなら=)となります。
すなわち、下記の関係式を得ます。
ΣQk/Tk ≦ 0…D
更に、n⇒∞に近づけていくと下記の式を得ます。
∮d’Q/T≦ 0…D'
このD'式がクラウジウスの不等式です。準静的過程の場合、
∮d’Q/T=0であり、d’Q/Tは状態量として扱えることが確認できます。
この新しい状態量はエントロピーと呼ばれるものです。エントロピーをSとすると、
下記の式で定義できます。
S = d'Q/T…E
次回はこのエントロピーの性質について論じたいと思います。
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